万媚は小面と同類の面ですが、「百の媚に勝ると言う心なり。」と小面のことを述べた伝書に書かれています。
万媚は今まであった若い女面に濃艶さをもりこみ、新しい一つの型を示したといえましょう。ただ艶といっても、ふっくらとした肉感的のものではなく、品のよい感情を内に秘めた高貴な女性といった感じがします。
なお毛描きの添え毛は額の中心から両側に三本出て、そのうち外側の一本が途中から他の二本のなかに入り込んでいるのが、他の女面にみられない特徴です。
百の媚に勝るとは漢詩「長恨歌」の前節に「廻眸一笑 百媚生 六宮粉黛 無顔色 (ひとみをめぐらして一笑すれば、ひゃくび生じ りっきゅうのふんたい 顔色なし)」とあり、楊貴妃の美貌と教養を百媚と称賛、その百媚に勝ると言うことでしょう。
万媚が多くの人に愛好されるのは人を引き付けて止まない魅力があるからです。