朝倉尉とは、観世流や宝生流で用いられる庶民の老人役の面。作者、福来(ふくらい)がその仕えていた領主朝倉侯にこの面を献上したところから、それを記念して名付けられた尉の面だと言われています。福来は特に翁の面や尉の面の名人でした。この面は小尉にくらべると、頬骨がさらに突き出て、筋肉にもやや厚味が感じられます。そのうえ、上下のたくましい歯列や、髭が上唇・下唇・顎の三段ともに粗い植え毛があること、また口元にほのかな微笑をもっていることなどから、田夫野人らしい粗野な感じがします。したがって、神の化身である小尉にくらべると品格にやや欠けますが、親しみやすい庶民的な相貌の面ですから、武将が登場する修羅物や怪異の登場する切能物の前シテの老人に、最もふさわしいと言えましょう。

inserted by FC2 system