この面は、平家の侍大将・景清の固有面です。能ではおなじみの平維盛・知盛にしたがって、源義仲・行家と戦い、のち平氏一門とともに西国に逃れます。屋島の戦いで三保の谷と戦い、その胄の錏を断って剛勇をあらわし、また壇の浦でも奮戦しました。平家滅亡の後、摂津で伯父の大日坊を殺したことで、悪七兵衛と呼ばれたといいます。この景清の面は、落人として零落し、しかも盲目の乞食法師となって、人の情けにすがりやっと命をつないでいるといった、哀れっぽい景清の相貌を表現しています。しかし、景清の面は各流それぞれの特徴をもっていて、それが演出にも影響を与えています。ただ、濃淡の違いはあるにせよ、黄土色に彩色された盲目の面であることは、すべてに共通しています。源氏に捕らえられたのち、頼朝の姿をみるのもいとわしいと、自ら両眼をえぐりとったいう伝説にもとづくからです。観世流と金剛流では鬚のない柔和な面を使いますが、宝生流・喜多流・金春流ではあらい植え毛のある非常に武張った感じのものを使います。

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