能の家の記録に「是は般若に今少したらむ所の面なり。角みじかきゆえ生成と名付け也」とありますように角は般若より小さいのです。生成は金具をはめた眼や金泥を施した上下の歯を持つ大きく開かれた口、そして小さな耳など、普通怨霊の面とあまり変わりありません。しかし、般若には無かった赤い舌も見え、それだけに鼻柱は短く扁平でどっしりとしていますので口元は凄まじい形相です。もっとも全体が滑らかな白あるいは薄い朱色彩色で毛描きもまた眉墨も般若より女性らしいのが、この面の特徴です。細いながら頬にまで乱れ毛が描かれている事は、やはり激しい怨霊の面そのものと言えます。なお、般若の敵愾心を一層強く表現したのが蛇の面であるという立場にたてば、生成は反対に般若になる以前の面と言えるかも知れません。古く室町末期には生成を「なりかかり」と呼んでいます。その生成に対して般若を中成、蛇を本成と呼んで区別していました。こうした呼び方は、これらの面を用いる人達の感情をよく表現した言葉だと思います。

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