悪尉の悪という字は、道義的な意味の「わるい」という事ではありません。猛々しく強く恐ろしい事を意味しています。したがって悪尉は恐ろしげな老体と理解するのが妥当であると言われています。普通の尉の面が、日本人の顔つきであるのに、この悪尉は目と眉とが接近し、鼻柱の隆起も異状に大きく、上下の唇と顎との三段に植えられた粗植毛にかこまれた口は、怨霊面の恐ろしさを十分に表現しています。全く、日本人離れした顔つきです。重荷悪尉は老人の若い女性に対する恋の希望と絶望を見事に表現しています。女御の悪いたずらと、もて遊びにより狂い死にした老人の哀れさと情けなさを表しています。老人の跡を供養してくれれば恨みを捨てて女の守り神となるという男の哀れな恋心を表現した『恋重荷』の後シテ専用の面です。

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