怪士(あやかし)の中でもこの霊怪士はきわめて特殊な面で人界と霊界のまさに半ばにさまよう怪奇な相貌です。内燃する霊的エネルギーは、この世のものではない不気味な精神性を包容し、亡鬼を封じ込め超人的な霊力を漂わす造形は異様で妙に生気があり、成仏しきれない哀れで恨めしい悲哀をも感じさせます。品位の格、精神的量感は重く、深淵な心の底に直接入り込む、中世人の生命力の豊かさを表現しています。眼はポッカリと落ちくぼんだ眼の中に、わりに大きめの金具をはめこんでいること、眉間の特殊な皺、また歯列も大きく、力強さはかなりのものです。そのうえ、普通の怪士が濃い黄土彩色であるのに、これは白っぽい桃色を基調としているので、毛描きや歯の黒色、唇と眼にそそがれた濃い朱とがくっきりとして、彩色的にはなかなかすばらしい面です。

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