「猩々」はおめでたい能曲です。唐土の金山に「こうふう」と言うたいそう親孝行の人がいました。ある夜、?陽(しんにょう)の江のほとりに棲む猩々が、海中から浮かび出でて舞をまい、こうふうの孝行の徳をめで、汲めども尽きない不思議な酒の泉の壺を授けます。彼はこの壺によって、大変な富貴の身となったと言うのです。この猩々は中国での想像上の動物で、酒をたしなみ、酔って舞い戯れる一種の妖精ともいえましょう。その表情は童子の面とほとんど同じで、さらに明るく全面赤く塗られて、両頬のエクボと湾曲した眼、そして口元に微笑をみせています。笑いの少ない能面のなけにあって、延命冠者とともに特殊な面であることも『猩々』という曲が祝言の能であるからでしょう。赤い彩色の顔色・湾曲した眼元・頬のエクボ・口元に微笑をうかべた特殊な面。造形としては童子に準ずる形をもっています。

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