弱法師は物狂能『弱法師』の面です。河内の国高安の里にすむ豪族左衛門尉通俊は、一人子の俊徳丸を、人の讒言によって追い出してしまいます。家を追われた俊徳丸は「げにも此の身は盲目の足弱車の片輪ながら、よろめき歩けば弱法師と、名づけたもふはことわりや」と謡曲本文にもありますように、悲しみのあまり盲目となって天王寺のあたりで、乞食の群れに身を投じていました。父はのちにわが子を不憫と思い、天王寺にやってきます。一方、俊徳丸は日想観にひたりすがると、心が高ぶり、盲目とならない以前の記憶がよみがえって、見えぬ眼であたりの景色をめでながら歓喜の狂乱をみせます。父はそこにわが子を発見し、喜びと悔いの涙を流します。弱法師のこうした悲劇的な身の上を象徴するこの面は、あどけなさを残しながらも、眼は永遠に閉じられ心の憂愁をたたえています。額のくぼみ、眉のつけ根から上瞼にかけてのミゾと、小鼻から上唇の左右にかけてのミゾや、ややうつむき加減に彫られた瞼などがその要因となっています。

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