白式尉』・『黒式尉』・『父尉』・『延命冠者

これら全てを『翁』(おきな)と言います。


 能の中でもっとも神聖視され、別曲として、祝いのときに舞われます。神の出現する脇能の脇は翁の脇という意味と考えられている。能の中で、発生がもっとも古い。平安時代末にすでに猿楽の中にあったといわれています。発生期の『父叟』(ちちのそう)・『翁』(おきな)・『三番叟』(さんばそう)という構成が、鎌倉・南北朝時代に『児』(ちご)・『翁』(おきな)・『三番叟』(さんばそう)・『延命冠者』(えんめいかじゃ)・『父尉』(ちちのじょう)となり、さらに、『児』が露払いと変じ、室町時代に露払いは『千歳』(せんざい)と変わり、『千歳』・『翁』・『三番叟』の形式になり、『延命冠者』、『父尉』は今日ほとんど演じられなくなりました。

 『千歳』・『翁』・『三番叟』のうち翁舞の中心は翁で、『三番叟』はそのモドキだといいます。翁舞は五穀の豊穣と生命の長久を祈る祝言舞(しゅうげんまい)です。翁面(白式尉:はくしきじょう)は能面の中ではきわめて特殊な形式、笑いをたたえた肉づきのよい表情で切顎(きりあご)です。それは寿詞をのべることを象徴的に表現したものです。翁が何者を表しているかは、諸説があります。土着の神の猿楽化とも、寺院における呪師芸(じゅしげい)の猿楽化ともいいます。

 今日の翁舞は、『千歳』・『翁』・『三番叟』の役の者ならびに囃子方(はやしかた)・地謡(じうたい)が登場し、今様四句神歌を翁役と地謡が掛け合いでうたい、つぎに千歳役が露払いと思われる舞を舞います。その間に翁役は翁面をつけ、ついで翁は天下泰平(てんかたいへい)の御祈祷として神舞を舞い、最後に万歳楽(まんざいらく)、万歳楽と唱えて引っ込む。翁舞が終わると三番叟の舞になる。最初に『揉ノ段』(もみのだん)といって直面(ひためん)で舞い、つぎに黒い切顎の翁面(黒式尉:こくしきじょう)をつけ『鈴ノ段』(すずのだん)を舞います。『揉ノ段』(もみのだん)は千歳舞に、『鈴ノ段』は翁の神舞のまねになります。翁の曲は一種の呪術的な物まね歌舞といえます。

※直面:ひためん
    
能の登場人物が、面(おもて)をつけず素顔のままのこと。
    
この場合も素顔を一つの面として扱い、顔面でことさらな表情を作らない。

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